「カメラマンには、相田樹を使うこと。」


受話器から聞こえたその言葉に、
私の体は凍ったように固まった。


「えっと、今なんとおっしゃいました?」


「だから!カメラマンに、
相田樹を使ってくれって言ったの!」



もう一度確認してみたけど、
相手の言葉は変わらなかった。


相田 樹って……


私が働いているデザイン会社、広告代理店、
それらの業界で仕事をしているなら、
一度は耳にする名前。

“新進気鋭の天才変人カメラマン”

わずか27歳という若さで、
業界に名を轟かす広告カメラマン。



……噂でしか聞いたことないけど、
相田樹って確か、


「じゃ、それでお願い。」


「え、あっ、ちょっと待ってください!」


慌てて叫んだ私の声は、
無情にも相手には届かなかった。


……嘘、切れちゃった。


「はあ……」


何なのよ、相田樹を使うことが絶対条件って。
この世界で働いてるんだったら、
相田樹を使うことがどれだけ苦労することか
わかってるはずでしょ。




天才カメラマン相田樹。
確かにカメラの実力はあったが、
彼には謎のポリシーがあった。


“美しいものしか撮らない”