「人に認められる為に小説を書くなんて、一生誰にも認められない生き方だろ。まずは、自分が自分を認めないと、世界は何も認めてくれない。だから、顔を出すことは実際どっちでもいいんだけど、そんな考え方を変えるには、そういうことがいい気もしたんだ」

「先生……」

先生は、私が持っている本に視線を向けてから、言った。

「この本、自分でいうのもあれだけど、自信作。今度実家に戻ったときに、置いてこようかと思ってる」

それは、先生の中の第一歩なんだと思った。

「伝えるって決めたことは、必ず伝わります。大丈夫です」

実際、難しいことかもしれない。だけど、先生には、大丈夫だと伝えたかった。

先生は頷くと腕時計を確認した。

つられて時間を確認すると、そろそろ向かわないと、次の打ち合わせに間に合わなかった。

先生が察したように、「話が長くなって、ごめん。じゃあまた」と区切りをうつ。

「いいえ。こちらこそ。ありがとうございます。私が言うのもなんですけど、先生のお力添えが出来ていたのなら、嬉しく思います。編集者として。これからもよろしくお願いします」と立ち上がり軽く頭を下げた。