アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 怒涛の騒ぎに、しばらく那智が動けないでいると、起き上がっていた遥人が、ぼそりと言った。

「俺、なんかあの人好きだな……」

 はあ? と那智は振り向く。

「なんでですか。
 今、微妙に私、ディスられましたけどっ」

 誰がスタンプ押すだけの仕事だっ。

「いや、あの人、ぱっと見、軽くて、ちゃらんぽらんな感じだが違うんだな」

 うーん、まあ、そう見えますよね……、とそこは同意する。

 自分の婚約者をとられかけている男からは、特にそう見えることだろうな、と思った。

 遥人が梨花を好きかどうかはともかくとして、状況的に好ましい相手ではないのに、そんな風に判断できる遥人こそ、すごい人だな、と那智は思う。

「まあ、あれはあれで筋が通ってるんですよ、
 通し方がおかしいので、皆様にご迷惑おかけしたりしてますけど。

 専務にも」
とつい、謝ってしまう。

「でも、専務。
 しっかりした考えを持って生きる、筋の通った人間がお好きなら、私なんぞはお嫌いなのでは?」

 適当にフラフラ生きているようにしか見えないだろうと思うからだ。

 だが、遥人は、いや、と言った。

「お前からは、ぼんやりのんびり生きたい、という強い意思を感じる」
と桜田並みにロクでもない那智の人物評が返ってくる。