買ってきたワインを冷蔵庫に仕舞い、軽く焼いたバケットにレタスやハムをサンドする。モッツァレラとトマトで簡単なサラダも作って一緒に添えた。

 サイフォンから零れる珈琲の香りが部屋中に満ちて、私と日向の間には、いつになく穏やかな空気が漂っていた。

「先生どうぞ」

「……ありがとうございます」

 日向は律儀に手を合わせてから珈琲を一口飲むと、サンドイッチに手をつけた。パン屑一つ零さない美しい所作に、私は彼と初めて会った時のことを思い出した。

 この人はきっと、きちんとした家庭で育てられたのだろう。品の良い彼の仕草一つひとつに、私はいつの間にか魅せられていた。