「大丈夫。今年はちゃんと空けています」

 けれどそう言う日向の横顔は、僅かに憂いを帯びているように見える。

 弱々しい笑顔に、何故か私は不安を覚えた。

「……無理してないですか、先生」

 日向は口元に笑みを浮かべ、ただ一言「大丈夫」と呟いた。まるで自分自身に言い聞かせているようなその言葉に、私はもう言葉を返せない。

 私は再び暖かいストールに顔を埋め、車内に低く流れる音楽に聴き入るうちに、静かに眠りに落ちていた。