さて。
15分を25分などと勘違いした頭がすっきりしたところで、些末な懸案事項を検討しよう。
いま、私の掌に包まれているビックルの瓶の中身はサリンである。
これを私に託したのはヤクルトをこよなく愛飲する知人だ。
知人はビックルをヤクルトの大瓶だと真顔で言っていたので、この瓶は、その至高の嗜好品をしこしこと飲んだ残滓なのだろう。
その残滓的瓶を毒薬の保管及び移動の用途に供するに至った理由は全く心当たりがない。
知人は変人である。
私もたぶん同類だろう。

茶色の瓶だから中の液体の色はよく分からない。
蓋はしっかりと閉じてある。
くるくると転がしてみてもデカビタCのように炭酸黄金水が噴出することはなかった。
先に述べたとおり黄金色かどうかも分からない。
光にかざしてみる。
やはり分からない。

瓶の向こう側に中吊り広告が見えた。
分譲マンションの広告のようだ。
『東京×駅徒歩2分×1878.2万円』
トウキョウXというブランド豚の広告ではない。
この「×」とはコラボレートの意を表しているのだろう。
東京を徒歩2分で積算するのでは意味が分からない。
そのあとの『駅徒歩2分×1878.2万円』とは、――なんだろう?
徒歩2分を1878.2万円でかける?
単純に2をかけると3756.4となる。
何の意味もない数字。
……いや、待て。
37564――ミナゴロシ。
そうか。
そういうことか。
私は蓋を開けた。
数字には意味があったのだ。

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