それでも、ツバサ君は駐輪場内をうろうろと歩き回るばかりだ。


あたしはスマホを取り出しその場面を録画しはじめた。


口では『すぐに駆けつけて助けたんだ!』という事を散々行っていたツバサ君。


実際は乗り込んでいくための勇気がなくて、こうして時間を潰していたのだ。


しばらくするとアパートのドアが開き、弘江が飛び出してきた。


続いて「逃げるな!!」と怒鳴りながら大也が部屋から出て来る。


2人ともかなり喧嘩をした後なのか、髪の毛も服も乱れている。


その時だった「今来たぞ!!」ツバサ君がそう言い、2人の前に飛び出して行ったのだ。


その光景にあたしは思わず笑い出してしまいそうになり、慌てて口を塞いだ。


「大也、また女の子にそんな事を……!!」


ツバサ君はそう言いながら大也へ向かって突き進んでいく。


しかし緊張のあまり手と足が同時に前に出ている。


ツバサ君の自慢話とはずいぶんと違うようだ。


「おぉ、よく来たなぁサンドバッグ!」


大也はそう言うと躊躇することなくツバサ君の顔面にパンチを繰り出した。


大也の攻撃をまともに受けたツバサ君はその場に倒れる。


弘江は一瞬目を見開いたが、この前のように悲鳴を上げる事もなくその様子を眺めていた。


「ほら、もっかい立てよ」


大也がツバサ君を無理やり立たせて、再び殴りつける。


頬を打つ音が夜の街に響き渡る。


弘江は興味がなさそうに髪の毛を直し始めた。