「“変異、召喚”」
サクスくんの魔法が発動された。
彼の力かと思えど、違うと知ったのは小物たちの群れから逃げたからだ。
しかもか、風圧が痛いほどのスピードで。
流れていく景色。このままあっという間に、出口までつくと思えば。
「う、わっ!」
いきなりの急停止。サクスくんが倒れて、私まで被害を被る。
もっとも、しっかりと支えてくれていたおかげかこちらは、いててて程度の話だけど、サクスくんは倒れたまま動かない。
「なっ、大丈夫ですか!」
魔法使用による代償であることは察せたけど、心配であることには変わらない。
「す、すみません。マッハドードーの足で、このまま逃げようと思ったんすけど。バテました。三分持たなかったす」
「そんなっ、私が重いせいでっ!」
「い、いえ、むしろ、重いというよりも柔らかいもので集中力が……。あー、フィーさん。とりあえず、“正解”を選びましょう」
サクスくんが言わんとする正解は、背後よりひしめき追う足たちが大きなヒント。
「不正解でも、間違ったことはしたくないのですよ」
そんな奴らの餌食に二人一緒になるつもりとしか言えない行動を取る。
サクスくんに肩を貸し、共に歩いた。
「フィーさんヤバいっすよ。小物だけじゃなくて、この通路の幅ならあの蜘蛛女も来れるし、あれが来たら逃げんの無理になりますって。まだ間に合いますから」
「その時は、私を置いて逃げてもいいですよ」
「逆っす、逆。お荷物置いて下さい。もともと、フィーさんたちいなくても、オレは犬死に覚悟で来たんすから」
「お荷物を置いていけなかった人が何を言いますか」
一人で逃げ切れたはずなのに、しなかった人を置いていけるわけがない。
「互いに、不正解ばかり選ぶっすよね」
「まったくです」
逃げられるよう、分かれる道を細かに移動してみたが、行き止まり到達。戻ろうにも、背後からの高笑いで終わりだと悟る。
ああ、これで……。
そんな気持ちが頭の片隅にあった。
サクスくんとて、もう終わりかとひどく落ち着いていた顔をしていたが。


