不正解なのに、間違ったことはしていない。


やけに頭に響く言葉だった。

こんな状況でも慰めてくれるサクスくんに、ありがとうと言う。

「い、いえっ。簀巻き状態で言っても格好つかないんすけど。フィーさんはそのままでいいと思いますよ。そんなフィーさんを守ろうとする人がーーと、ここまでみたいっすね」

服が背中から破けてしまう心配をするあたりで、クモの一体が倒れる。続けてもう一体も。

「彼の絞殺なのでしょうが、首が……」

あらぬ方向に曲がっている死体と目が合ってしまった。よほどの殺意が窺える。

「怒り狂ってますよ。フィーナを拘束し、引きずるなんて。とかで。フィーナを縛って監禁していいのは俺だけとも、って、は!?」

「ああ、懐かしいですねー。炎を出せるようになった時、モンスターを狩れるのではないかとよく森に行っては、引きずり返され、果ては懲りない私への最終手段にベッドで三日間拘束されましたよ」

魔法を使えるようになった記念称して、モンスターのお肉で、村のみんなと焼き肉パーティーしようとハイテンションのまま行き続けた結果だった。

「人としての人権を主張してもいいと思うっすよ」

「焼き肉パーティーはしてくれたので、満足しています」

基本、彼は優しい。きちんと私の願いを叶えてくれたし、痛いこともされていない。困ったことと言えば、三日間もベッドでゴロゴロしていたため体重が増えたぐらいか。

「ほんと、相思相愛なんすね」

よいせっ、の口振りでサクスくんの拘束が解かれる。手にナイフを隠し持っていたらしい。私の糸も同様に切られた。

「拘束されているのに、よく内側から切れましたね」

「体重かけてましたから。おかげで、ずるずる引きずられている内に、だいぶ糸が緩まってきましたし、ナイフはあらかじめ、手に持ってたんす」

へえーと、服の土埃を落としながらサクスくんの機転に感心してしまう。

「小物は、やっぱり頭良くないみたいっすね。こんな誰でも思いつくことに気が回ってないんすから。運ぶなら、担ぐなり、もしくはもっと糸を巻きつければいいのに」


私も頭良くない認定していると気づかないサクスくんの目に、力が入る。

「でも、これでやっと」

彼が見据える先にはゴール。出口ではなく、目的の物がある場所だ。

今まで通ってきた道が食道なら、さしずめここは胃か。ひどくがらんどうな空洞に、それはいた。

小物の二足歩行とは違い、八本足で体を支える黒い蜘蛛は、見上げてしまうほど巨体。サクスくんは蜘蛛の下半身と、女の上半身を持った奴と言っていたが。

「誰さね。あたしの眠りを邪魔するのは」


黒蜘蛛の背から生えし女が、こちらを見る。

繋がりのない物を無理につなぎ合わせたような異質さでも、蜘蛛と同化している女は悠々と振る舞っていた。

「不愉快な。我らも食べられると思って来たのかい?思い上がらないでほしいねぇ、人よ。頭から咀嚼してあげようかい?」

白いドレスに、白いパラソル。人らしくいても、忌々しげに歪められる三つ目はモンスターである証だ。

「これが……」

「司祭さまの声を返せっ!」

感情のまま駆けるサクスくんを止めたのは、小物の軍勢。女王を守る配下のように、我が身を盾としていた。