ぼたぼたと、天井から落ちてくる二体の異形。昨晩と同じ、背からクモの足を生やした三つ目のモンスターだ。
「く、クラビスさん!サクスくんを!」
他力本願で情けないことではあるけど、私程度の力ではこの窮地を抜け出せない。実際、炎を飛ばしてみたけどクモの足が払われる程度で消えてしまった。
こうなれば、残るはサクスくんの力ないし、一番有力な彼の力なのだけど、地面に横たわるサクスくんに変化はない。
「まさか……っ、まだサクスくんが死ねばと思っているのですかっ」
この小物の足の速さが人並みであることは、昨晩、サクスくんから逃げた奴より知っている。私の足でも逃げ切れるし、サクスくんを囮にすればその確実さは増す。
「私が誰かを置いて逃げるとお思いですか!ーーむしろっ」
私が囮になってやります!
との勢いのまま、敵に突っ込む。
案の定、クモの糸に拘束された。秒殺だ。
「……、すみません。時間稼ぎにもなりませんでした」
「熱意は伝わったっす。けど、あの時は逃げていい場面っすよ。結果、二人とも捕まるのが一番ダメなパターンで、いてっ」
簀巻き状態のまま、ずるずる引きずられた。小石が背中に当たって痛い。
「クラビスさんっ、いいのですか!クモの餌になりますよ!美味しく食べられちゃいますよ!マヨネーズをつけられ、炙られますよ!」
「美味しそうな食べ方熱弁で、クラビスさんを煽らなくてもいいっすよ」
「サクスくんは、チーズとケチャップをかけられて焼かれるのですよ!」
「いえ、ですから……。フィーさん、フィーさん、このまま本命(ボス)のところまで連れて行ってもらいましょうって」
サクスくんのひそひそ話で、なるほどと思う。
いくら入り口を見つけたところで、ゴールまでたどり着ける保証はない。ここを寝床としているモンスターなら、迷わずにボスのところまで連れて行ってくれるだろう。
「でも、行き着いた先が厨房だったら、唐揚げにされ、レモンをかけられ食べられますよ」
「どこまでも美味しく食べられたいんすね……。その時こそ、オレとクラビスさんの出番っすよ。さっきだって、こいつらがその場で食べようとするんなら手を打ってました。けど、そんな様子ないので静観することにしたっす」
「考えなしに行動した自分が恥ずかしい……」
穴があったら入りたい。
恥じていれば、サクスくんがもっと早くに言えば良かったすねと続ける。
「フィーさんは、本当に綱渡り中でも猪突猛進するタイプで、見ているこっちは危なくてやめろと言いたくなりますけど、責めたくはなくなります」
「それは、彼の言葉?」
「いえ、オレっす。フィーさんの行動は誉められたものじゃない。この結果を見ればそう言える。なのにーー不正解なのに、間違ったことはしていないから」