*

二日後、私たちは行動を開始した。

そのためには、一度彼らの家に寄る必要があった。

私は二人のことが心配だったけど、特に変わった様子がなくてほっとした。

今は感傷に浸る時間はない。


「見えた屋根はこの辺だよな?」

「たぶんそうです」

「落ちるなよ」

「落ちるかよ!」


直弥さんは屋根に登って注意深く家を一つ一つ見ていく。本当なら私が登るべきなんだけど、危険すぎるからやめてくれと止められた。

私の証言に合う角度の窓を探していくも、ここら辺は似たような構造の民家が立ち並んでいて特定はできなかった。


「あの家の辺りがたぶんそうだと思うんだけどな」

「行ってみるか」

「でも、あんまりうろうろしてたら怪しまれませんか?」

「大丈夫だ。誰か同業者がこちらに気づいていたら、それと同時ぐらいに白虎丸も気づく」

「オレの相棒は五感が優れてるからな」


ほう、と納得して私は二人の後ろについて歩いた。

慎重に歩いて進む。

こっち方面は学校と反対側だから来たことはなかったけど、同じような家ばかりで迷子になりそうだ。

平日の昼は人気がなくて閑散としている。


「そう言えば、この地域に住んでる人って幻獣使いが多いんでしたっけ」

「そうだ。一般人もいるはいるが少ない」


それならこの静けさは納得がいく。

ペットを飼っている人もいないのか、犬のシールを標識の近くに貼っている家はまったくない。

動物は幻獣の気配を察知できる。


「……あ、だからか」

「なんだ?」

「あ、いえ。鳥がいないのは幻獣のせいなのかなと思って。スーパーの方は鳥がいますけど、この辺はいないので不思議に思っていたんです」


こんなに密集した家があって植物や木々がたくさんあるのに、鳥がいないのはおかしいと思っていた。

カラスやハトは人の近くで生活しているのになぜいないのか。

皆幻獣にビビって逃げちゃったんだ。


「鳥か……」


健冶さんがそう呟いたとき、ハトが二羽どこからか飛んできて一軒の家の木にとまった。

今さっきまで鳥はいないって話をしてたのに、どうして?


「ハトですね」   

「ハトだな」

「……あそこが怪しい」

「なんでそうなるんだ?人がいなけりゃ幻獣もいないんだからハトが来てもおかしくねーだろ」

「いや、おかしいんだ。幻獣の気配を消したり隠したりするのは逆に怪しい。毎日生活しているんだから、気配は家に染み付いているはずだ」

「それをわざわざ隠すってことは、それなりの理由があるってことですね」


私たちがその家の前まで来る途中でハトは逃げてしまった。

気配のない安住の地に白虎丸たちが来たらそれは驚くだろう。


「えっ」

「おい……嘘だろ」

「まさかだったな」


私たちは我が目を疑った。

その家の表札の名前を見た瞬間、三人で顔を見合わせ、もう一度名前を確認した。

そこにはしっかりと『穂波』と刻まれていた。