「私、帝王切開は嫌なの。自分のお腹で育てたのに、どうして最後の最後に他の人が手を出すの? 私は、自分の力で産みたいの」
「だが……、優美……」
「聖」
母さんは、父さんの名前を呼んだ。
普段、私達の前では、母さんは父さんの事を、“お父さん”と 呼ぶ。
しかし、ごく稀に、名前で呼ぶ時がある。
そんな時は決まって……
「私のわがまま、聞いてくれるでしょ? ね?」
と、言うのだった。
母さんは、基本的に、わがまま、そもそも、自分の主張をあまりしないタイプだ。
みんなの意見を最優先に考えるところがあるのである。
だから、母さんがわがままを言い出すと、父さんは、呆れたように、でも少し嬉しそうに、「仕方ないな」と言いながら、母さんの頭を軽くポンポンとする。
「言い出したら、優美も頑固だからな」
と、いつも言っているのだ。


