食事が終わったら、貴臣さんはスーツに着替えて会社へ出かけます。

「いいか椿姫、俺が出たらすぐに鍵をかけるんだぞ。知らない人が来てもすぐにドアを開けちゃ駄目だぞ。必ずインターフォンで誰か確認してからだからな」

 玄関先でそう念を押してくる貴臣さん。彼は毎朝必ずこの台詞を言ってから会社へと出かけていくのです。

「大丈夫ですよ。子どもじゃないんですから」

「椿姫がかわいいから心配なんだろ。男だったら出なくてもいいからな」

「本当に用事のある方だったらどうするのですか」

「用事ついでにかわいい椿姫の胸を見たり、足を撫でたりするかもしれないだろ。転んだと見せかけてスカートの中を覗いてきたりするかもしれないぞ」

「大丈夫ですよ、そんな変態は貴臣さんくらいですから」

「俺みたいな変態がいるから心配なんだよ!」

 自分で変態だと認めるのですね。まあ、私も彼が変態だということは否定しませんが。

「分かりました、ちゃんと鍵をかけますから安心してください」

「うん、そうしてくれ。じゃ、行ってくるからな。今日は残業ないから、早めに帰れるよ」

「分かりました。それに合わせて晩御飯作って待っていますね」

「うん、よろしくな」

「はい。行ってらっしゃい、気をつけてくださいね」

「ん」

 ちゅ、と軽く触れるだけのキスを交わし、貴臣さんに小さく手を振ります。彼も笑顔で手を挙げながら玄関を出て行きました。

 ぱたん、とドアが閉められたことにほんの少し寂しさを覚えながらも、言われた通りにきっちり鍵を閉めました。そしてキッチンへ戻ったところで、黄色いゴミ袋が二袋、目につきました。

 そうだ、今日は燃えるゴミの日です。

 前回出すのを忘れてしまったので、今日こそは出さなければいけません。

「よし、捨てに行きましょう」

 私は袖を腕まくりして気合を入れ、燃えるゴミの指定袋である黄色い袋を両手に持って外に出ました。