そう言われると嬉しいものです。私は衝動のままに高臣さんに顔を寄せ、素早く唇を掠め取りました。

「ありがとうございます」

 にっこりと微笑めば、何故か感動したように目を潤ませる貴臣さん。

 そして。

「ああ、これからはもっとよく椿姫を見る! そして今はお前を抱く!」

 と、テーブルを乗り越えて抱きついてこようとしたので、私は思い切り中高一本拳を眉間に叩き込んであげました。

「あらあら、いけませんよ。そんなことをしていたら電車に間に合わなくなってしまいます」

 遅刻をして会社から信用を失って、それが積み重なって出世に響いたら大変ですからね。どんな小さなミスもしないに限ります。そして、そんなミスをさせないよう、支えるのが妻というものです。

 ……と思ったら、貴臣さんは椅子ごと後ろにひっくり返り、意識を失ってしまいました。

「あら、貴臣さん。寝てはいけませんよ、起きてください」

 愛情をたっぷり込めて往復ビンタを二回ばかり繰り返したら、彼は息を吹き返しました。

「うう……や、やっぱり誰よりも男らしいよ、お前は……」

 目覚めて開口一番に、そんなことを言われました。

「それは褒め言葉ですか?」

「たぶん」

「ありがとうございます」

 朝から旦那様に褒められてしまいました。嬉しいですね。今日はいいことがありそうです。