でも、灯りのついていない家に貴臣さんを帰すなんて考えられません。彼が帰ってくるまでに、何としてでも温かいご飯を用意して、笑顔で出迎えなければ。

「くおおおおおー」

 気合を入れて王子を抱え直し、疲れてきた体に鞭を打って走ります。

 その横を小さな青い鳥がすい、と飛んでいきました。優雅に滑空するその姿を見ていたら、名案を思いつきましたよ。

「王子、王子、飛行の魔法などはありますか」

「飛行、はない。だが、浮遊する魔法ならばあるぞ」

「そうですか。爆発の魔法はありそうですね?」

「ああ。破滅の魔法の下位魔法になる」

「ならば飛行機のように飛べそうではありませんか」

「飛行機とはなんだ?」

「マイレージポイントを貯められる乗り物です。貯まったら航空券をもらえます」

「……よく分からん」

「とりあえず王子は浮遊の魔法とやらを唱えてください。そして私が爆発の魔法を使えば、一気にお城まで飛んでいけますよ。そして私は夜までに貴臣さんの元へ帰れます」

 王子に浮遊の呪文を唱えてもらうために、私は一度立ち止まりました。

「なに、飛ぶ? 鳥のようにか? そのような魔法、魔王くらいしか使っているのを見たことはないが……」

「魔王ですか……」

 私たちがその名前を出したのがいけなかったのでしょうか。

 ごおおおおお、と、飛行機が空を飛んでいるときのような音が遠くから聞こえてきました。その音はだんだんと大きくなってきて、だんだんと近づいてきて。

 黒い鳥……もとい、魔王が姿を現しました。

「ま、魔王ー!!!!」

 王子が苦しいくらいに首にしがみついてきました。