瓦礫の上を滑るように着地するのとほぼ同時に、今までいた場所に赤黒い禍々しい色をした光が飛んできて、瓦礫の山を粉砕してしまいました。

 私の長い黒髪と短いワンピースの裾が爆風に靡きます。

 危なかったです。あのままあそこにいたら、私と王子も吹き飛んでいたでしょう。

「一体、何が……」

「ま、魔王!」

 王子が真っ青になって叫びました。

 生まれたての小鹿のように震える王子が見据える先には、頭からすっぽりと黒いローブで身を包んでいる人がいました。更に全身が真っ黒な陽炎に覆われています。こちらに突き出された右手には、その陽炎が大量に集まっていました。あれは今飛んできた赤黒い光線の元でしょうか。そんな気がします。

 なんだか胸が重苦しい。

 胸の奥の方で、冷たいものがチリチリと燻っているような感じがします。

「あれが、魔王ですか」

「ああ、魔王だ。まずいぞ勇者、あれは強い」

「そのようですね」

 見るからに危ないですよ、あの方。

 あんな方と一戦交えるなど御免被ります。

「逃げましょう」

 私は王子の首根っこを掴み、勢い良く走り出しました。ここでも勇者特典が発揮されまして、百獣の王もびっくりの速さで瓦礫の山を飛び越えながら走りました。