「いいえ、私はただの若奥様ですよ」

「は? いいや、お前は『勇者』のはずだ!」

「いいえ。私は確かに最近結婚したばかりのピチピチな人妻です」

「な、なんだとぉっ! お前のような子どもが結婚を許される国があるというのか!」

「失礼な方ですね。私は立派な成人女性ですよ。花も恥らう21歳ですよ」

「21だと! 俺より3つも上だというのか! 10歳そこそこの子どもにしか見えんぞ、嘘をつくな!」

 金髪碧眼の王子様風美少年は、恐い顔で私の肩を更に強く掴みました。

 うーん、ちょっと痛いです。おまけにこんな素敵なレディを捕まえて10歳の少女など言うなんて、失礼極まりないです。これが貴臣さんだったら問答無用で愛の鉄拳を頬に食らわせていますよ? 流石に初対面の方にそんなことはしませんが。

「嘘ではありません。そして勇者でもありません。私は普通の主婦です」

 少し胸を張ってみると、金髪碧眼王子様風美少年の視線が私の胸にきました。

 何やらジッと見つめていたかと思うと、ほんのり頬を赤くして目を逸らしました。

「む……た、確かに、成人しているようだな……」

 エプロン越しでも私の胸はちゃんと膨らんで見えたようです。おかげで成人と認定してもらえました。良かった良かった。でもちょっと凝視し過ぎでした。これが高臣さんなら愛の腕ひしぎ十字固めが飛び出していましたよ。

「しかし、俺は『勇者』を召還したんだ、間違いなく。お前は普通の主婦などではない。絶対に『勇者』だ」

「はあ。そう言われましても、私はただの主婦です。ほらほら、ご覧になってください。私のどこから見ても若奥様な格好を」

 と、ゴミ袋を持ったままくるりと回ってみせました。フリルのたくさんついたエプロンの裾が、ふわりと広がります。