二人が話している途中、邪魔しないよう何も言わずにそこから離れた。すると、並河君はその子との会話を無理矢理に切り上げ私を追ってきた。

「待って、詩織(しおり)…!」
「……何?」
「ベル打てないなら電話しよ。こっちからかけるから」

 いつの間にか潰しそうなほど握りしめていた私の手の中のケント紙を指差し、並河君は言った。

「気が向いたら詩織も電話して? そこに家電の番号も書くから」
「……」

 即答できない。

 並河君と目を合わせられなかった。ちょっと他の女子と話していただけなのに、それだけで全然知らない男子に感じてしまう。

「……夜に電話すると親がうるさいから」

 自分でもビックリするほど冷たい声が出た。

 並河君は一瞬言葉を詰まらせたものの、何かを察したみたいに小さくうなずいた。

「そっか。分かった。無理言ってごめんな」

 寂しそうな、困ったような、そんな笑い方をし、美術科の校舎へつながる渡り廊下に行ってしまった。

 遠くなる並河君の背中を見て、胸がぎゅっと強くしめつけられる。

 本当は電話番号を教えたかった。

 長電話したら絶対親に怒られるけど、それでも並河君と電話で話してみたかった。彼の家の電話番号も知りたかった。学校では話せないようなことも、電話でなら話しやすかったかもしれない。ううん、内容も大事だけど、声が聞けるならそれで充分。

 なのに、真逆のことを言ってしまった。

 自分が悲しかった。親に振り向かれないこと以外で泣きそうになったのは、これが初めてだった。

 胸が苦しい。痛い。泣きそう……。