親が怒るから長電話はできないけど、並河(なみかわ)君になら家の電話番号を教えてもいいかもしれない。

 長話にならなければ、子機を使えば、親の目が届かない自室でちょっとくらいは話せると思う。

「ベルは打てないけど、家の……」

 言いかけたその時、他のクラスの女子が並河君の方に駆けてきた。とても親しげな笑みを浮かべて。

「奏詩(そうし)ー! 昨日の夜ベル打ったんだけど見てくれたー?」
「ごめん、今朝見た」
「マジで!? それ持ってる意味ない! 眠いの我慢して返事待ってたんだよ、こっちは〜。おかげで寝不足」
「課題に集中してたんだよ」
「それはこっちも同じなんですけど」

 並河君と同じ美術科の女子みたいだ。彼女はうらめしげに並河君を見上げ、だけど次の瞬間には弾けたように笑顔を見せ、私に気付くとニコニコしておじぎをしてきた。

 可愛い子だなぁ……。性格も明るそうだし、社交的な雰囲気。並河君のそばにいるのがとても自然な感じ……。私と全然違うタイプ。

 並河君、この子にもベル番教えてるんだ……。私だけじゃないんだ。

 知り合いなら誰にでも教える、ポケベルは気楽なツール。番号を教え合う、そのやりとりにこれといって深い意味はないんだ。

 並河君と関わるようになったのは、彼が私を好きだというウワサが流れた後だし、無意識のうちに自意識過剰になってたかも。

 恥ずかしさに気付いたとたんに、疎外感。

 美術科の課題について話し込む男女を前に、完全に部外者の私。