中学1年の頃、美季に誘われ塾に入ることにした。
近くに住む年上のイトコが優秀だったので、私はよくその子と比較され叔母さん(イトコの母親であり父の兄嫁)から馬鹿にされていた。そのせいか、ピアノ教室を反対した母は、塾に関しては積極的に許可してくれた。
塾は自転車だと30分近くかかる距離にあるし、夜遅くなると危険だということで父が車で送り迎えすると言ってきた。
でも、週に2度の送り迎えは父にとって負担だったらしく、迎えのたび暴走運転をされた。アクセルを強く吹かす音が毎回怖かった。
それが嫌だったし気を遣いたくなかったので、自分で自転車で行くと申し出ると、夜は危ないからダメだと激しく怒られた。言葉でそう言われても全然心配されている感じがしなかった。
結局父の車での送り迎えは続き、そのたび私は、母の指示通り父の好きな缶コーヒーを差し入れするはめになった。すると父の暴走運転は少しマシになった。
無条件の愛なんてないんだなと痛いくらい理解した。
そんな父と私のやり取りをたまたま見ていた美季が、親にそんな気遣ったことないと悲しげに言った。私を思いやっての言葉なんだろう。やっぱりウチはおかしいんだなと再確認したーー。
並河君と初めて話したのは、まさにそのウワサがキッカケだった。
昼休み、普通科の廊下にやってきた並河君は、初対面の私を呼び止め簡単な自己紹介をすると、前々からの知り合いであるかのようにこう言ってきた。
「ねえ、もしかしてもうウワサって聞いてる?」
すぐに、何のことか分かった。彼が私を好きかもしれないというウワサについて尋ねていると。でも、「ああ、うん、聞いてるよ。並河君、私を好きってホント?」なんて、言えるわけない。
私はウソをついた。わざと冷たい口調で。
「何のこと?」
「そう、知らない、か」


