義親も、実の娘のように甘えてくれる嫁を期待していたんだろう。私がそういう女じゃなかったから、怒り、ネチネチと小言を言ってくるようになった。

「旦那に求められないなら他で埋めてもいいって思う。優人に期待してるだけの時は自分が醜くなる一方だったけど、並河君といると自分のことを好きになれる。毎日が楽しいって思える。
 並河君も私も、会わない間に色んな異性と関わって、遠回りして、やっとお互いが自分にとって必要な存在だって分かった。セカンドでもなんでもいい。手離したくない、たったひとりの大切な人だよ」
「セカンドパートナーじゃなかったら、その恋、心から応援できたのに……」

 美季は席を立った。悲しそうにうつむいている。

「バイバイ。詩織」
「……え?」

 目を見開き、私は座ったまま美季の顔を見上げた。

 土曜日の昼食時で店内は混んでいる。店員は忙しそうで、私達の頼んだ料理はまだ運ばれてきそうになかった。

「もうすぐ料理来るよ?」
「もう、詩織とは会わない」
「……!」
「並河奏詩と別れるか、優人さんと離婚したら、教えて。その時はまた、過去にこだわらず付き合うよ。幼なじみの親友として」

 美季の絶交宣言。それは、昔ケンカのたびに告げられた感情任せな言葉ではなく、いやに落ち着いていて冷ややかなものだった。

 私も私で、こわいくらい冷静だった。美季の出した結論に驚いたものの、こうなることを心のどこかで予想し、覚悟していた気もする。

「不倫してる友達を子供に会わせたくないの。悪影響出るから。子供の前でそういう話をしないようにしたとしても、ダメ。子供って大人のやってること敏感に感じ取って不安定な気持ちになるの。だから、詩織とはもう今までみたいに付き合えない」
「……分かったよ。聞いてくれてありがとう。失望させてごめんね」
「……」

 少し遅れて出てきた料理を食べることなく、千円札を置いて美季は帰っていった。食べる気分が失せたので、私も支払いだけして店を出た。