父は両親からろくに面倒を見てもらえず、兄ばかりを可愛がる家庭で育った。心が寂しいまま大人になってしまった。
母も同じだ。物心つく前に両親が別居。父が若い女に惚れ込み家を出て行った。養ってくれる夫を失くした母親は働きづめ。母は不安定な気持ちで毎日をすごし、暗いからと学校でイジメにもあった。大人になっても表情の暗さはなくならなかった。
子供の頃は自分が愛されることしか考えていなかったし、母が語るそれらの過去が私への言い訳に見えて腹が立った。そんなのは子供を愛さない理由にならない、と。
今なら理解できる。だからって仲良くしたいとはもう思えないけど、父も母も愛されたかっただけ。その方法が分からなくてつらかったはずだ。私が生まれたってその傷は治らなかったのだから……。
自分の結婚を決める時は、統計より感情を優先した。
愛情深い大人に育てられた人と結婚すれば、そういう親を持つ人と結婚すれば、傷つけ合うことなく幸せになれると思った。
実際、結婚前は、優人の両親もいい人だった。並河君のおばあさんと話していた時のような、羽留のお父さんお母さんと一緒にいる時のような居心地のよさがあった。
この人達となら普通に仲良くやっていける。そう思ったから結婚を決めた。
しかし、結婚後はガラリと変わってしまった。義母は高圧的な言動で自分のやり方を押しつけてくるし、義父もそんな義母の言いなりで、義母の機嫌が悪くなると私のせいだと言う。
快適な人間関係を保つための適度な距離感なんて、あったものではない。
こんなはずではなかった。


