「すみません、優人さん。デリケートなお話なのに。詩織もごめんな……」
並河君が気遣わしげな目をして私達に謝った。
昔からそう。いつもいつも欲しい言葉をくれる。私の心を見ていてくれる証だ。
でも、今は優しくしないでほしい。泣きそうだから。
立つ瀬がない。どうして私、初恋の人の前でこんな姿をさらしてるんだろう……。
やっぱり、結婚なんかしなければよかったーー。どうして結婚したんだっけ。
そうだ。並河君のおばあさんと仲良くなれた経験が、優人との結婚の決め手だった。
結婚しない方が楽だと思ったし、私のような人間は一生ひとりでいるのが向いていると考えた。それでも、やはり生まれつきの孤独は自分をどんどん蝕(むしば)んでいくようで非常にこわいものだった。
弱さに負けないよう、傷ついた過去を言い訳にして甘えの強い人間になってしまわないよう、決して揺るがない心のよりどころがほしい。結婚の目的はそれだけだった。
両親のようになりたくないと思い、結婚には慎重だった。一生一緒にいる相手なのだから、選択を間違うことはできない。
兄弟の有無や両親との関係。職業。食の好み。あらゆる面から見て同じ境遇の人同士で結婚した方が離婚率は低いという統計が出ていることも、知っていた。
それでも、私は私のような生活を送ってきた男性とは結婚したくないと思った。親の愛を知らない者同士が一緒になっても、愛し方を知らず傷つけ合うだけの結果に終わる。
実の親がそうだったから。


