「いいですよ、お気遣いなく。もう慣れましたから」
優人は困惑気味に笑い、答えた。
「会社や親にもそう訊かれるんですけど、仕方ないですよね。世の中子供いない家庭の方が珍しいですから。……子供は諦めました。それでいいと思ってます。夫婦二人、仲良く穏やかにやっていければ」
諦めた。その言葉には、普段の夫婦生活で語られない優人の本音が詰まっている気がした。夫婦二人仲良くっていうのは妥協で、本当は今でも子供がほしくて仕方ないんだ。
想像はしていたけど、口にされるとダメージが違う。破壊力が大きかった。
やっぱり優人も、子供がいないことで周りから色々言われているんだ。私と違い、毎日決まった人間関係に触れる職場なのだから当然かもしれない。私の知らない所で義親にも何か言われているのだろう。
秋月さんや並河君を前に妻失格の烙印を押され、さらし者にされた気分だった。
みじめでつらく、恥ずかしい……。
……これまで何度、こういう思いをしただろう。法事。親戚の慶事。義親の店の常連客も来る外食の席。
『まだ子供できないんだって? 優人君、詩織ちゃんはなかなかヤらせてくれんのかー? でもな、浮気はしたらダメだぞ〜』
親切心を気取ってそういうことを平気で言ってくる常連客もいる。表面的には気にしないふりで流したけど、何年経っても慣れないし頭にこびりつく不愉快な言葉。
純情ぶる気はないけど、よく知らない相手にそういう言い方をされるのは気分が悪かった。完全にセクハラだ。
黙れジジイ。会社で偉い立場なんだろうけど、だから何? 想像力欠如しすぎ。キモいんだよ。わざと言ってるのなら人間性疑う。ーー何度そう思ったか。
そういう話題が出ても、そばにいるのに優人は助けてくれなかった。


