誰にも愛されない。急所を突かれたような気分だった。言われなくても私自身が一番よく分かっている。実の親にすら愛された記憶がないのだから。
私に突然そんなことを告げられ、彼も動揺したんだろう。まさか自分の父親が彼女に手を出すなんて、普通の大学生は想像すらしないだろう。
でも、それは実際あったこと。
子供のいる立派な父親でも、女性を見れば変な気を起こすことがある。私だってそんな経験したくなかった。その人との別れは、あらゆる意味で打ちのめされるものだった。
その後告白してきたのが、優人だった。
その頃の私は毎日死にたいと考え、食事を絶っていた。死ねば誰にも迷惑かけないと本気で思った。表面的には明るく振る舞っていたけど、鈍感な優人が気付くほど、人の悩みに無関心な美季が毎晩寮に訪ねてくるほど、私の様子はいつもと違うものだったらしい。
もともとボディタッチのクセはないけど、それ以来、男性との接触に過敏になった。
チハルちゃんや秋月さんみたいに、男性相手にスキンシップをする女性を見ると嫌悪感が湧く。そして、男性に対して警戒しなくていい彼女らをうらやましくも思う。
思い出したくないことまで思い出してしまった。もう忘れたと思っていたのに……。記憶はこわい。どこでどうつながっているか分からないから。
玄関でぼんやり立ち尽くしていると、並河君が声をかけてきた。
「詩織、大丈夫……? 顔色が悪い」
「外寒かったから。大丈夫、このくらい平気!」
「もしかして風邪?」
「だったけど、ほとんど治ってるから大丈夫!」
高校の時もそうだった。言葉足らずな私を見て、並河君は真っ先に体調が悪いことに気付いてくれた。変わらない彼の優しさに触れ、ちょっぴり元気が出た。心の中を見られないよう、少しだけ演技もした。
「蟹、楽しみ! 食べてあったまろうっと」
「たくさんあるから好きなだけ食べてってな」
「ありがとう」
私達も二階にのぼった。


