テーブルを挟んで向かい合った向こう側から羽留はこちらに両手を伸ばし、私の右手を優しくにぎった。励ますように、包み込むように。
「知ってたよ」
「……!!」
「話してくれてありがとう。認めるの、こわかったよね」
泣きそうだった気持ちが、羽留の手のぬくもりで消えていく。こんな友達を持てて、私は本当に幸せだと、心底思った。
気持ちが落ち着くと、羽留は憂いた瞳をした。
「詩織が今までそういうこと言えなかったのって、“あのこと”が引っかかってたからじゃない?」
「そうだね。うん。……そうだよ」
「並河君、なんであの時来なかったんだろうね。それで今になって他の人と付き合ってるとか……。詩織には悪いけど、そのことだけは並河君に腹が立つよ」
「羽留……」
あのこと。
あれは、高校の卒業式の翌日のことだった。大学生活が始まる少し前、高校生として最後の春休み。
私は思い切って並河君をメールで呼び出した。あえて彼の都合は訊かず、一方的な誘い文句で。
《大事な話がある。高校の最寄駅に来てほしい。待ってる。》
初めて一緒に下校した日、並河君と別れた場所。思い出の駅。


