田中さんも変わった。
もともと顔立ちや声が可愛い人だったけど、並河君と付き合ってからはうんと大人っぽくなった。それまで目立つタイプじゃなかったのに、色気があると言われるようになり、特に先輩男子に告白されるようになった。
田中さんと別れる頃、並河君の絵調がだいぶ変わったと、学校で話題になった。
もちろん、学術的評価としてはいい意味での変化。精神的成長が著しい、高き才能の開花の瞬間、と、高い評価を受けていた。
喜ばしいことのはずなのに、私は複雑な気分にしかならなかった。これが、羽留の言っていた『後悔』……?
よく知る並河君が、先にどんどん大人になっていく。知らない人になってしまう。そんな気がして、ただただ、寂しかった。
書道教室の前日。
結局、並河君に対するモヤモヤ感は解消されないまま、気を紛らせるべく仕事や家事に勤しんでいた。
子供じゃあるまいし、恋人ができたくらいでいちいち報告なんてしない。並河君はそういうスタンスなのかもしれない。
仕事の後、夕食の食材を買いに近所のスーパーに出かける。菓子パンコーナーに陳列されたマフィンが苦い記憶を呼び起こした。
マフィンを見ると、今でもつらくなる。あの頃の自分の無知と無自覚、鈍感さを思い出してしまうから。マフィンに罪はないけれど。
あの時、羽留のアドバイス通り、私からのマフィンだと言って渡していたら、並河君は田中さんと付き合ったりしなかった? 突然降り出した雪に喜び、同じように空を見上げきれいだと言ってくれた?


