「田中さんなんかの応援したら、詩織は絶対後悔するよ。だから、マフィン渡すの、あたしは反対。そのうちホントのことバレてもいいから、それは詩織からのってことにして渡しなよ、ね?」
「でも……。田中さん、一生懸命作ってたし……」
「詩織がそこまで心配する必要ないよ! 自分で渡さない人が悪い」
「うん、そうだよね……」
私のことを思ってそういうアドバイスをしてくれている。それは痛いくらい伝わってきた。でも、羽留の言葉の意味が理解できなかったせいで、最終的に私は自分のやり方を優先させてしまった。
その日の放課後、昇降口で待ち合わせて一緒に帰った並河君に、例のマフィンを渡した。
「これ、並河君に」
「詩織が作ってくれたの? 嬉しい! そういえば、さっき調理実習って言ってたな……。これ作ってたんだ。わざわざラッピングまで。うまそー!」
目、すっごくキラキラしてる。そんなに甘い物が好きなんだ。包みを開けてテンション高く喜ぶ並河君を見て、胸がしめつけられた。
「あー……。それ、私じゃなくて、田中さんって子から。同じクラスの子なんだけど、渡してって頼まれた」
「え、そうなんだ……。そっか、ありがと」
「感想、本人に伝えて。あと、並河君の好みとかも。田中さん、そういうの知りたがってたから」
「うん……。分かった」
並河君のテンションは明らかに下がった。
あのまま全部食べそうな勢いだったのに、開けていた包みを閉じ、マフィンに手をつけることはなかった。
その時、雪が降ってきて、傘を持たない私達の頭や肩を冷たくかすめた。


