羽留が深刻な顔をする意味が、この時は分からなかった。並河君には悪気なんてちっともないんだと、私は信じていたから。
「羽留の言う通りだとしても、並河君に彼女ができたら、私は応援するよ。もちろん、羽留に彼氏ができても同じ」
「ありがと詩織。でも、そういうことじゃなくて……。うーん……。あたしの考え過ぎかなぁ。そうかも」
しばらくスッキリしない顔をしていたけど、羽留は吹っ切れたみたいに言った。
「あたしも、詩織に彼氏できたら全力で応援するよ。たまには遊んでほしいけど。相手されなくなったら寂しい」
「もちろんだよ。彼氏できたって私達の関係は変わらない」
寂しい。羽留が放った一言に、保健室での並河君の言葉を思い出した。
『寂しいよ。誰とも付き合ってほしくない』
そう言った並河君の声のトーンや表情まで鮮明に覚えている。記憶の中の並河君に、またドキドキした。
その後ウソって言ってたし、寂しいって言葉も冗談だってのは分かってるけど。
羽留も、私も、彼氏ができて恋に夢中になる日が来るのかな……。全然、想像できない。
田中さんから預かった並河君宛てのマフィンのことを思い出し、私は言った。
「並河君はモテるし、そのうち彼女できるかも」
「モテるだろうけど、並河君はそういうの相手にしないと思うな〜」


