「並河、探したって! 先生呼んでる」
バタバタと足音を鳴らし、並河君のクラスメイトの男子がやってきた。
「何してんだよ、サボり?」
「うん、疲れたから」
「あのなぁ……。探す方の身にもなれよ」
「ごめんごめん」
軽い調子で謝り、並河君は立ち上がった。保健室を出る間際、扉の所で私を振り向く。
「体育の途中だったの忘れてた」
「そうだったよね、体育がんばって! これ、ありがとう」
包帯を巻いた手を掲げ、私も立ち上がる。
「詩織。放課後って用事ある?」
「ううん、何も」
「じゃあ、昇降口で待ってて。一緒に帰ろ」
「うん…!」
ただただ、嬉しかった。久しぶりに並河君と一緒に帰れる!
でも、次の瞬間、やっぱり一緒に帰りたくないかも、と、思った。一緒に帰れば、田中さんのマフィンを渡さなきゃならない。
女子から明るく頼み事をされて嬉しかった。一生懸命な田中さんが可愛いなとたしかに思った。それなのに気が進まないって、どうしてだろ……。
ただひとつ分かるのは、一度引き受けたことはもう取り消せないということだけ。
ヤケドをして途中授業を抜け出したものの、4時間目のはじめには再び調理実習に参加できた。家庭科の先生も事情を知り、単位をくれると言ってくれた。
実はちょっと楽しみだったカルボナーラの試食もできたし、班の人達には悪いけど色々な意味でラッキーだと思った。ガーゼを巻いているおかげで後片付けはせずにすんだし、ヤケドしたおかげで保健室に行き並河君と話すことができた。
それに、なにより、並河君との仲を誤解されずにすむよう、並河君公認のウソをつける。
並河君と関わる時、いつも、女子の視線が気になってた。これからはそういうのを気にせず並河君と話せるんだと思うと、開放感でいっぱいになった。


