「妖はそう簡単に死なん。それに、もし助けたとして恩を仇で返されることもある」


「…けど「真冬」


「何度も言わせんといてくれ。俺はもう何も失いたくないんや」



悲しそうに眉を下げる祚馬。


…祚馬はまだ“あの事”を自分のせいだと思っているんだ。


私は何も言わずに頷いた。



「…ほな帰ろか。…真冬様?」



足を進めようとしない私に、祚馬は不思議そうに聞いてきた。



「祚馬は先に帰って。私は友達に借りた本を返してから帰ります」


「…今日は妖もあんまおらんし、遅くなると爺さん五月蝿いしなぁ」



しばらく悩んでから、「気をつけて帰ってくるんやで」と祚馬は走り去って行った。



「…さて」



祚馬が見えなくなり、私は男の人……妖の前に屈んだ。


祚馬には悪いけど、嘘を吐かせてもらった。


このままほうっていたらたとえ妖でも死んでしまうかもしれない。


人も妖も関係ないんだ。


目の前に困っている人がいたら助けたい。


ただそれだけ。