「ほぉう、貴女が美しいと名高い、安倍の姫ですか?私は女子供を傷つける気は無いのですがねぇ…」



アタシを見て、男が気味の悪い笑みを浮かべる。



……此奴は完全にアタシを舐めている。



「──気に入らない」



ボソッと呟くと、アタシよりも先に、太裳が動いた。



「…私も、同感。女だからって、甘く見るのはよした方がいいわよ。」



男をきつく睨みつける太裳は、いったい何をしたのだろうか?確かに何かをした様なのだが、何の変化も見られない。



「聖凪!!ボサッとしない!!」



「え?」



間の抜けた声を出すアタシに、太裳が「よく見なさいよ」と言う風に、顎で男を指す。



太裳の言うとおりに男を見直すと、男がおかしいという事に気が付いた。



「…固まっている?」



いや、固まっていると言うより、見えない何かに拘束されている、と言った方がいいだろうか。



「私は直接、モノに傷をつける力は弱いのよ。その代わりに、拘束や護りは他の天将より秀でているの。」



太裳が、「さぁ、遣ってしまいなさい」と言わんばかりに首を振る。



…まずは、此奴を倒す!!



と思ったけれど、雑作も無さすぎるのではないだろうか?



こんな奴にここまで寢殿を荒らされて、いったい兄上は何をしているのだろう。



「いけないわ。此奴には聞かなければならない事が、山ほどあるもの。」



兄上に向けた視線を、動こうと必死に藻掻いている男にもどす。



太裳は、「こんな奴、さっさと落としてしまえばいいのに」と言う顔をしていたが、分かってくれた様だ。



「兄上!!」



「ああ、分かった。」



兄上を呼ぶと、アタシが言わんとしている事が分かった様で、男のすぐそばまで近づいて行く。



男は近づいて来る兄上を睨み付けているが、拘束され身動きの取れない状態で、そをな事をされても全く怖くない。



太裳の術がもし解けたとしても、こんな奴なら兄上も一捻りにしてしまうだろう。