母屋を出て、足速に寢殿を目指していると、勾欄に寄りかかって気を失っている者や床に倒れている者が、多数いた。



…まぁ、これでアタシの姿を見られる心配は無くなった訳だ。



「瘴気に当てられたのかしら?」



そう呟く玄武に、すぐさま否定する。



「違うわ、これは兄上の術よ。」



そう、兄上は異形のモノを抑える術よりも、人を操るなどの、自分の意のままにする術を得意としている。



アタシとは、正反対の兄上は、互いに欠けている力を補える存在なのだ。



ここに榊が加われば、父である安倍晴明をも、あるいは凌駕する事も出来るかもしれない。



きっと、アタシが出てきても大丈夫な様に、邸全体に術をかけたのだろう。



寢殿につくと、兄上と聞いた事もない声が話しているのが聞こえた。



「不思議だなぁ、安倍一族でも賀茂一族でもない貴方に、そんなに強い霊力があるわけがない。」



「安倍一族でないから?っは、それは慢りから出てきた言葉でしょうね。自分たちが優れている、と考えている貴方方一族には、自分たち以外に優れている者がいると気付けなかった。」



「それは、失礼!!慢っているつもりも、無いがな。…確かに、自分の実力ではなく人外のモノの力を借り、強大な力を手に入れた、お前には気付かなかったよ。」



相手をおちょくる様な兄上に対し、男には兄上以上の余裕が伺える。



「兄上っ!!」



「聖凪か、四の君はどうした?」



兄上の元に着くと、直ぐに聞かれてしまった四の君の事。思わず俯いてしまう。



「何処かへ逝ってしまいました。すみません、ワタクシの力不足で…」



下唇を噛み、悔しさと自分の未熟さを耐えていると、直ぐに兄上から返事が返ってきた。



「そうか、先ずは此奴をねじ伏せるぞ。四の君はそれからだ!!」



こんなアタシに深くを追及しない兄上に、アタシも集中する事が出来、早く此奴を倒さなければと、意気込む事が出来た。



「はいっ!!」



先ずは此奴を倒すっ!!