平安異聞録-お姫様も楽じゃない-




「六合、陰陽寮に二、三日入って欲しいの。お願い出来る?」



「陰陽寮にですか?」



そう、女のアタシには、どう頑張ったって大内裏にある陰陽寮には行けないのだ。



この国で、一番陰陽師が集まる場所が、目と鼻の先にあるのに……



「ですが、いきなり私が陰陽寮に出仕したりなどしたら、周りの者が怪しむのではなないですか?」



六合の疑問は正しい。



…だがアタシは、曲がりなりにも陰陽師なのだから。



「あら、陰陽寮の陰陽師たち位、アタシなら簡単に記憶の修正を行えるわよ。」



「…」



楽しそうに話すアタシに、すこしあきれ気味に笑みを浮かべる六合。



だけど、最後にはちゃんと了承してくれて、さっそく、呪いの準備を始める。



「六合、いい?貴方は安倍の遠縁で、大江孝房(オオエタカフサ)と名乗りなさい。何かあった時は、父上を頼ってね。」



紙を何枚もに切り刻み、指を小太刀で切り、切った紙に自分の血を馴染ませる。



切った方の手を紙の上に重ね、左手で印を結ぶ。



─虚心─



ぶわりと、見えない何かが吹き抜けるのを感じた。



「失敗していたら、ごめんなさい。…でも、その時は本当に父上を頼って?何とかしてくれるから。」



「……自信が、無い…のですか?」



不安気な視線を投げ掛けてくる六合に、胸を張った返事を出来ない。



「ごめんなさい、この術、はじめて使ったの…」



「…」



六合は無言を持って返した。



自分も神であるのに、まるで神にすがるような目をして…。



六合の為にも、この術が絶対に成功する事を祈ろう。