夜になり、こっそりと持ってきていた衣装一式を取り出す。
夜は基本的に誰も控えないように言っているため、きっと抜け出すことはお祖父様や女房たちには洩れないはず。
でも、念には念を入れて、紙を人型に切り式を作る。
声は出せないけれど、姿形は人間そっくりになっている。
紙に息を吹き掛け呪文を唱える。
─我の姿を写し、我の遣えよ─
紙が宙に浮き、みるみるうちに人型に変わっていった。
アタシに対し膝をつき忠義の形を摂る式に対し、「アタシの身代わりになって」と命じ、いつものごとく邸を抜け出す。
一つ苦労をしたのが塀を越えることだった。
一条の邸に比べ、二条の邸は物凄く塀が高かった。
今までは木を伝えば、楽々と飛び越せた塀も、今や木を伝っても手が届くか届かないくらい。
冗談抜きで、風神を召喚しようかと考えた程だった。
邸を抜け出し、まず最初に一条の邸に足が向かっていた。
やっぱりアタシは、あの邸がとても安心できて、好きだった。
一条の塀の側まで行くと、この塀を乗り越え「聖の元へ行きたい」という衝動に駆られた。
「聖…」
白い息と共に、聖の名前を呟く。


