平安異聞録-お姫様も楽じゃない-




そんな事を考えながら、扇をパタンと閉じた時だった。



「中将の君っ、大殿様から内々に御使者が参られまして…」



別の女房が慌ただしく遣ってきて、柊杞に耳打ちをする。



しばらく、静かに女房の話を聞いていた柊杞は目を丸くした。



「まぁ!?」



「いかがいたしましょう?」



困った顔をして、首を傾ける女房に柊杞も難しい顔をする。



「…大殿様直々の命であれば、仕方が無いでしょう。有嗣様には退出して戴きましょう。」



「お伝えします。」とだけ告げ、女房は頭を下げて出ていった。



「柊杞。」



柊杞を呼ぶアタシの声に、少しの遠慮もなく嬉しそうな物が含まれているため、呆れたようにこちらを振り向く。



「姫様、お聞きになられたでしょう。今日は有嗣様に退出していただきます。」



「そう、嬉しいわ。」



満面の笑みで返すアタシに、柊杞は「まったく。」とだけ呟いて対屋を出ていった。