平安異聞録-お姫様も楽じゃない-




「あ、ありがとうございます…」



小さく呟くアタシに多分ニッコリと笑ったで在ろう彼が、立ち上がりここを去っていった。



黒視眼のアタシは彼が見えなくなっても、去って行った方をいつまでも呆然と見つめていた。



意識をこちらの世界に引き戻したのは、もう虎の刻のことだった。それに自分で戻ってきた訳ではない。



「姫っ!!」



「戻っていらっしゃいませっ!!」



ブンブンと肩を勢いよく揺すられる。こんなことをするのは唯一人しか居ない。



「玄武?」



「姫っ!!」



「何をこんな処で寝て居られるのですかっ!!変な輩に、顔を見られでもしたら…っ。少しは貴族の姫と言う事を自覚してくださいませ!!」



意識を取り戻した途端、説教なんてまるで柊杞だ。



「…玄武」



「はいっ!?」



「加減を考えなさい」



「な"っ!!姫ーっ」