幸いにも、梨壺の更衣もお腹の御子も今のところはなんともないようだが……
藤壺の女御の時の、何かが起こってからしか対処出来ない、情けない事はしたくはないのだ。
早く、吉平と吉昌に大きくって貰いたい者だ。初位の二人ではどんなに才能があろうと自由が利かない。
それは兄上も同じで、才能があろうと陰陽寮に所属していない兄上も内裏になど来れないのだ。
自分が動けないならば駒が欲しいとも思ったが、当分は無理そうだ。
はぁっと深いため息をつく。
しょうがないが、真子とあの者を動かすしかないか。
「利宇古宇、梅壺の香久山と名乗る女房に会って来なさい。あの者と繋がりはなかなか使えるわよ」
冗談めいた物言いをする私に真子は首をかしげる。
「香久山、様?」
「ええ、忍に任せる、と」
「忍?」
忍とはいったい誰なのか、任せるとは何の事かと怪訝そうな真子の顔が饒舌に語っている。
「大丈夫、香久山はそれで分かるはずよ。」
まぁ、私の元に毒の付いたくないでも飛んできそうだが。
「身の危険を感じたら、直ぐに人を呼ぶか逃げるかなさい。命が危ないわ」
くすくす笑う私に、真子は仰天する。
「身の危険!?」
「大丈夫よ大丈夫」
肩をとんとんと叩くと、真子は問い詰めるような目で私を見てくる。
「さあさあ、お行きなさい」
真子の背に手をやり促す私に、真子は渋々といった体で不安気に梅壺へと向かって言った。


