平安異聞録-お姫様も楽じゃない-




「こうなる事は分かっていたもの」



「思い上がりはいけないわ、私はお祖父様がいたから此処にいるの。元の身分はもしかすると貴女よりも低いかもしれないわね」



品格はやはり育ちに出る。真子のそれは日に日に増している気がする。お母様のそれだろう。



「そのような事はどうでもよいのです。女御様のお気持ちは!?」



むきになって身を乗り出す真子の頭を撫でる。



「貴族と言うものは厄介で、身分、地位は切っても切れないの。身分、地位を手に入れるために手を汚し、そのために陰陽師も女もなんでも利用する人がいる」



お祖父様が酷い人だとは思わないが、私も利用されているのだ。でもそれが普通。



「それに蹴落とし合いはすぐ近くで起こっているわ。かくいう私も懐妊直後に不覚ながら呪咀を受けたもの」



「貴女は気持ちは?と聞くけれど……殿方が他の姫君の所に行くのを悲しく思わない人がいるかしら?」



「それは……」



「悲しいけれど、何より貴雄様の悲しむ顔を見る事が辛いの。だから私は梨壺の更衣様を守るわ」



「女御様」



真子の大きな瞳から涙がいくつも零れ落ちる。



本当に優しい子。



「何故、真子が泣くの?」



「女御様は私の実の名を知る唯一のお方。消えかけていたかけがえの無いものを、大切なものを再び灯して下さった、私の大切な大切なお方です」



涙で濡れた瞳で、覚悟を決めた純粋な瞳で真っ直ぐにぶつかってくる。



優しくておっとりしていて、頼りなさそうなか弱い少女。



でも、私よりも強く一本筋の通った瞳をしている。



「女御様を取り巻く全ては私が守ってみせます」



「女御様の幸せのために」



握り締められた両手から、見つめられた面差しから───



何より、その想いから温かい気持ちになる。



「ありがとう」



真子の頬を包み込み額を合わせる。



「でも、私の幸せには貴女の幸せも入っているのよ」



真子の瞳からは次から次へと大粒の涙が零れ落ちる。



「はい、有り難き幸せです」