何も声を出せなかったアタシにこの人はもう一度優しく問い掛けた。
「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
月の光でアタシの顔は、彼の方からは昼間の様によく見えているはずだ。
だけど、それをしないのはこの人の優しさからなのでしょう。
思考の停止したアタシは顔を隠すこともしてはいなかったのだから。
「…え?あ、はい。」
「良かった。…高貴な身分の方とお見受けします。顔を見られでもしたら大変でしょうから。」
そう言って彼がアタシの頭にふわりと掛けたものは、とても綺麗な女物の単衣だった。
「これで面を隠してお帰りなさい。…どうせ私には不要な物ですから大丈夫です」
彼は“不要な物”と言ったが今しがた包みをといたこの単衣は誰が見ても、あきらかに貰い物だ。
アタシがそんな事を言いさげな顔をしたので彼は『大丈夫』と付け足したのだろう。


