平安異聞録-お姫様も楽じゃない-




生まれてはじめましての修羅場?…いやいや違うか。


アタシの体裁の危機に足がガクガクと震えて、この場から逃げ出すことが出来ない。



こんなことよりも、物の化や生霊との死闘の方が怖くはない。アタシにとって異形の物より、殿方の方が未知の生き物だから。



再び怖さで溢れだすアタシの涙を拭うのは、小さい自分の物ではなく長くて綺麗なしっかりとした指。



一瞬何が起こったのか解らなかった。身体では理解できたけど、頭では理解出来ない。



いきなりのことで驚き、勢いよく顔を上げるがアタシからは、月の光の逆光で涙を拭ったこの人の顔が見れない。



だけど、この優しい雰囲気と温かい指の温もりはとても安心出来た。



思わず顔を上げてしまったアタシに、背中を向けて優しく男が問い掛ける。



「大丈夫ですか?」