平安異聞録-お姫様も楽じゃない-




翌日、何時ものように真子の手習いを見ながら寛いでいると、真子がふと此方を見た。



私が首を傾げると真子は、一度は顔を反らすが、ちらちらと此方を気にしている。



見兼ねた柊杞が嘆息する。



「なんです、はしたない」



柊杞の一言にびくりとした真子は、ぎこちなく此方へと向き直る。



「……あ、あの……」



真子はそれだけ口にすると、その後は口をもごもごするだけでなかなか、思い切れずにいる。



口を開いては閉じ、開いては閉じ………



それが永遠と続くかと思われたが、威厳ある咳払いが響いた。



「おほんっ」



柊杞の厳しい目に見据えられて、真子は小さくなりながらも、漸く意を決したようだ。



「この西の対では妖を見る事など無いのですか?」



真顔で問い掛ける真子に、側にいた数人の女房が「何を言いだすか」と、ほほほと笑いだした。



「この西の対は女御様が御自ら結界を張られておられるのですよ、それを妖などと」



「それだけではない、一条の殿もこの邸全体を護られておられる」



こんなに安心出来る処は他にはないわねぇ、と談笑する女房に納得がいかないような顔で、「申し訳ございません、戯れ言です」と話を止めた。



様子を伺っていた私は側に控えている朱雀、太陰と目を合わせ、眉を下げて笑う事しか出来なかった。