平安異聞録-お姫様も楽じゃない-




自分にはそれが本当かどうか、確かめる術を持たないからか、柊杞は不信そうな顔を崩さない。



…だから、一つだけ確かな事を伝えてみよう。



「中将。本当よ、私は抜け出したりなどしないわ。私の身近な人たちに変事が起こらないかぎり。」



私の真剣な顔にほっとしたようにしたのも束の間。柊杞は私の発した最後の文に、またもや目を剥く。



「女御様っ」



さらに続けそうな柊杞より先に口を開く。



「よく考えて?変事が起こらないかぎり……と私は言ったのよ。今、私の周りでそんな事は起こっていないのよ。」



くすくすと笑う私に、柊杞は一条の邸にいた頃の様に物凄い表現に変わっていく。



「起こってもいない事に腹を立てるのは、あまり利口じゃないわ」



「っ」



百万語でも発したい様な顔で、柊杞は口をつぐむ。



理性で必死に堪えているのだろう。



「さあさあ、貴女も下がって休みなさい。もう遅いわ」



右手で手を振ると、柊杞は簡単な挨拶をし口惜しそうに下がって行った。



顔を上げた柊杞の表情を思い出し、口元が緩む。



今となっては、身近にいる人では柊杞だけである。



昔から変わらずに接してくれるのは。



「せーいな」



背後から首元に冷たい腕が回され、微かな体重がかかる。



艶のある声に、目だけで応えると、体重は直ぐに無くなった。



代わりに目の前に玄武がすとんと腰を下ろした。