平安異聞録-お姫様も楽じゃない-




「最近では、姫宮様もお産みになり、落ち着いておられましたのに」



御帳台に入り、さて休もうか、と考えていた所で側にいた柊杞がぽつりと呟いた。



じっとりと半眼にした視線も乗せて。



「…女御様に面と向かって申し上げるのは、大変、本当に失礼で、私の様な恥ずかしい身分のたかが女房が恥を知れ、と自分でも思うのですが………」



一気に言ってのける柊杞に、こちらも苦笑いする。大層な落とし様だ。



「女御様?………先程からずっと、小悪党の様なお顔をされていますよ」



仮にも女御という身分の私に向かって「小悪党」と言ってのけた柊杞に、偶々聞いていた女房が一人ぎょっとする。



もう一人控えていた少将は慣れた様に苦笑するのだった。



一条の邸から来た古参の女房にとっては、端から見たら失礼極まりない物言いも日常茶飯事なのだ。



「母となった今、姿を眩まそうなどと軽はずみなお考えは、露ほどもお持ちではありませんでしょう?」



内容が内容だけに、誰にも聞かれないよう、声を潜めてはいるが、威圧感が幾分か増した目でにじり寄られる。



ここまでの言われように、流石の私も今まで、散々迷惑を掛けてきた事を申し訳なく思う。



「中将、仮にも母となったのだから、その様な事できる筈がないじゃない。」



「お祖父様に多大な迷惑を掛けてしまう事になるもの」



それに、もしそんな事をした事が外に漏れた場合、元々身体の弱いお祖母様など、心労で危篤になりました、など冗談ですみそうもない。



しかし、久しぶりに陰陽師の考えをしたせいで、そこまで顔に出ていたのなら、気をつけなければならない。



二月もしないうちに内裏に戻るのだから。



まだまだ探るような顔をしている柊杞に、自然に笑って見せる。



「大丈夫よ。そこにいる式神が面白い話を聞かせてくれているだけよ」



常人には見破りようもない嘘を少しの後ろめたさもなくつく自分を、またもや嗤いそうになる。