もう長くはない、という枕元に母が自ら姿を見せました。
虫の息の父の手を握り、あれ程父を憎んでいた母が涙していたのです。
『私を攫った貴方は憎いけれど、私やこの子を愛し守ってくれていた事は解っていました』
『死んでくださいますな』
その言葉を聞いた父は幸せそうに笑い、すまない、とだけ残し逝ってしまいました。
母と私に嘆く暇はありません。
父が亡くなった今、私たち母子を守ってくれる者はもう居ません。
私は鬼の血を引いているけれど、同族ではない。……強い力を持った人。
鬼たちの恰好の餌食です。
父の死が知れる前に逃げなければいけない。しかし、鬼の里から出る法を私たちは知らない。
途方に暮れていた時、母が思いもよらぬ事を言いました。
母は六年神に使えていた。
それならば、母の命と引き換えにその六年の年月だけ私を神の子にすると言うのです。
それが神に使え巫女となった母への最後の託宣でした。
『私は貴女を生み貴女を守る為に生まれて来たのね』
と、母は私を優しく抱きしめ、そのまま永遠の眠りにつきました。
私は母と父の為にも生きなければなりませんでした。
母が残してくれた六年の年月を、里から抜け出す法を見つけるため、必死で駆け回りました。
そして丁度十三になる砌、抜け出す法を見つけました。


