平安異聞録-お姫様も楽じゃない-




「はて?ヒック…こんな所で何をし、ヒックっておるのだ?」



アタシに声を掛けてきたのは、さっきの愛想が良い雑鬼たちとはまた別の…厄介ごとだ。



酔っぱらいとは、いつの時代でも、迷惑なものである。こんな輩がよく大内裏で仕事が出来るものだ。



今回は…



車でもなく、お供も付けていないところからして、身分はそう高くないのだろう。



どんどん近づいてくる酔っぱらいは放っておくことにして、その場を立ち去ろうとした時、頭に物凄い力がかかった。



「きゃぁっ!?」



自分の口から、小さく悲鳴が漏れる。



最初はいきなりのことで、何が起こったのか分からなかったが、すぐに理解することが出来た。



アタシの髪を掴まれていたのだ。



頭痛い。



髪が抜けちゃうじゃない!!



酔っぱらいはそんなアタシの思案をよそに近寄ってきた。



「こんなに夜も更けて、ヒック…おるのにどうしたのだ?」



もわぁっ



酒臭っ!!



アタシに近寄らないでぇ〜!!



逃げたいけど、髪を掴まれているせいで逃げられない。



陰陽の術を使おうにも、相手が悪い。人間相手に術を使ってはいけない訳ではないが、アタシはまだ使った事が無い。



呪咀ならともかく、妖に投げつけるような術を人間になんて…考えただけでも寒気がする。