天后が出て行ってまだそう時間がたって居ない時、牛車の外が騒がしくなる。



強い気は感じられないが、とても善いものとは言い難い気配がある。



「おい娘っ!!この列は桐壺の女御様の列であるぞ、下がらぬか!!」



車に付いている男の声が聞こえ、太陰と無言で頷き合う。



「追われていると言う女ね。まだ追われているわ………弱々しいけれど妖の気配がする」



誰にも気付かれぬ程度に御簾を押し、声のする方を除く。



被衣を被った女性が地面に手を突き倒れており、そばに男が数人立っている。



「……転ばせた訳ではないでしょうねぇ」



そう呟いた時、悪意をはらんだ風が吹き、女性の袖を引き裂く。



急に起こった驚異に、男達は後退る者もいれば腰を抜かす者もいる。



「天后は何をしている」



太陰がそう言い、翔る。



風が吹く気配がする。



もう一度来るか!?



──滅──



印を結び声をあげる。



「ぎゃああっ」



姿を現した妖に術が直撃し、叫び声を上げた妖は後もなく塵のように消え去った。



手をついている女性は此処から見る限り、どうやら無事のようだ。



ほっと息をつき、懐から人型の式を取り出し印を組む。



──入魂──



牛車の中に現れた式は、私に一礼し外の随身の童に声をかける。



『もし』



『女御様があの女性の所まで車を進めよ、と申しておいでじゃ』



寄ってきた童は式の言葉を聞き、慌てて牛を引く。