当然、内裏を下がる事はないと思っていた女房達だから、桐壺の様子は慌ただしかった。



私は女房達に着替えを手伝ってもらい、邪魔にならないよう、普段使っている北の棟から南の棟へと移った。



先日の件は公にしては藤壺の女御が心を痛める、と配慮され、私や貴雄様が関わっていた事は伏せられた。



藤壺の女御は陰陽寮の役人から祈祷を受け、数日の物忌みに入られた。



だから、藤壺の女御の文を携えて参られた貴雄様に多少なりと驚く。



呆れていた女房がそれでも何処か嬉しそうなのは、貴雄様のご寵愛が切れる事を心配していたからだろう。



「これを藤壺の女御様が?」



受け取った文と貴雄様の顔を交互に見る私に、貴雄様は嬉しそうに首肯する。



「ええ、自分を助けてくれた桐壺の女御様に心酔したそうですよ、妬けてしまいますね」



くすくすと笑う貴雄様に、もう、とだけ言い文箱にしまおうとする私に、貴雄様は笑うのを止める。



「どうぞ今読んであげて下さい」



「でも…」



躊躇する私に貴雄様は「いいから」と文を持ちなおさせる。



笑顔で勧める貴雄様に押し敗け、一言断って文を開く。



─────……




文をを読み終えた私に、貴雄様は優しく声をかける。



「藤壺の女御は大丈夫です。私には何があったのかは分かりませんが、きっと立ち直れます。」



文から顔を上げた私に、ね、と笑顔を向けてくださる。



文には昨夜のお礼と、私の身体を心配する内容で埋まっていた。



文だけでも、藤壺の女御本来の優しさが感じられた。



優しい笑みを向ける貴雄様に、微笑み返す。



貴雄様の笑顔があれば、きっと立ち直れる。そう簡単に思えてしまう貴雄様は本当に素晴らしい方。



「ええ、きっと素晴らしい方にお成りでしょうね」



素直にそう言った私に、貴雄様がからかうように笑う。



「おや、妬いてはくれないのですね?」



私は本当に貴雄様が愛しく想う。



ただ笑うだけの私に、貴雄様は優しく見つめて下さるのだった。