冷たい物が額に触れた気がして、ゆっくりと目を開ける。



「……玄武」



私の額に自分の手を当て、目を閉じている玄武が目に入る。



静かに目を開いた玄武が私を確認して、わざとらしく大きなため息をつく。



「気を失ったと聞いたけど、力を使い果たした割りには回復は人並みはずれて早いのね」



「だって普通の人ではないもの」



そう言ってもう一度目を閉じる私に、玄武が鼻で笑う様な声を出す。



「貴女、今ここで寝てしまったら暫くは帰れないわよ」



それを聞き、また微睡かけた頭を覚まし目をぱちりと開く。



「女房たちが話してたもの、無理して帰すべきでわないって」



占いからすると、次の機会は十日後になるようね、と哀れんだ笑みを浮かべる玄武を見て、直ぐに身を起こす。



「女御様?」



先程の私の話し声が漏れていたのか、御張台の側に控えていた柊杞と右近が顔を覗かせる。



私が口を開くと同時に柊杞が安堵の笑みを浮かべる。



「女御様、本当にようございました。お身体に優れない所などございませんか?」



「運ばれていらした時は、もう本当にご心配で……」



「…大丈夫よ、疲れていただけのようだから。……今は何刻?急いで支度しなくては」



立ち上がろうとする私を、二人がじっと見つめてくる。



二人の顔を見て、頬を少し膨らませる私に二人揃ってため息をつく。



「女御様。女御様はお倒れになったのですよ。ここはゆっくりと静養し、体調を整えられてから───」



「あら、倒れるなんて大袈裟よ。ただ眠気が襲ってきただけですよ。……それに私は穢れを負ってしまいました、此処では迷惑をかけてしまう……だから帰るのですよ」



もっともらしい事を並べる私に、呆れる二人を急かす。



「さあさあ、早くしないと二条のお邸に着く頃には日が暮れてしまうわよ」