平安異聞録-お姫様も楽じゃない-




『兄上様っ!!』



それまでの閑かな雰囲気とは打って変わって、悲痛な声が響く。



弱い火の光の側で、今床に横たわっている梅壺の女御とそう変わらない見た目で、瞳に涙を堪えている。



『兄上様に今帝の女六の宮様が御降嫁されると聞きました。それは本当なのですか?』



自分の袖にしがみ付く梅壺の女御を、女御の兄と思し気少年が悲しげに引き離す。



『また簡単に姿を見せて…もう裳儀を済ませたのだから、男に姿を見せてはいけないと言われているだろ』



顔を背ける少年に梅壺の女御は詰め寄る。



『でも兄上様は私のっ…』



言い掛けて梅壺の女御は口を閉ざす。



─兄上様は私の兄妹─



梅壺の女御の言い掛けた事が耳の奥に哀しく響いた気がする。



それ以上何も言わず去ろうとする少年に、梅壺の女御の瞳からは堪えきれなくなった涙が次々に零れ落ちる。



『………ずっと……ずっと一緒な居てくださると、幸せにしてくださると言いましたっ』



梅壺の女御の叫びに、少女ではない、女の熱く哀しい想いが見える。



『っ私は、兄上様を兄妹ではなく………心からおしっ』



『透子っ』



それまで梅壺の女御の顔を見ようとしなかった少年が、険しい顔で見つめている。



『私は女六の宮様を娶るし、其方を東宮様に入内させようと父上は考えていらっしゃる。』



少年は梅壺の女御の両肩に置いた手に力を込める。



『……私と透子は紛れもなく兄妹だよ。今までも、そして此れからもずっと』



その少年の悲しげな瞳に、その言葉が本心だとは思えなかった。



少年の言葉を聞いた梅壺の女御はその場に崩れ落ちそうになるが、それを少年が支える。



少年が梅壺の女御を気遣わし気に首を傾げると、それまで肩を震わせ俯いていた梅壺の女御が静かに顔をあげる。



『───私がそんな理など壊してみせる…』



涙を湛えた瞳で少年を睨むと、か細い両手で少年の頬を包み自分の顔を寄せ口付ける。